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Selfishly

Selfishly

『好き? or 嫌い?』


『 好き?or嫌い? 』


H18,2/27 01:30



いつも、騒がしいを通り越して 騒々しい司令部も
今日は 比較的、静かな時間が流れていた。
出かけている者も多いのだろう扉の向こうでは、
時折鳴る電話のベルの音と
それの受け答えをしている者の声が
かすかに聞こえてくるだけだ。

ロイも、ここ数日を溜めていた書類処理に励み
いつもなら、横に張り付かんばかりでプレッシャーを
かけてくる、綺麗で怖い副官も
今日は、自分の仕事に時間を割いているのだろう、
部屋には ロイ一人しかいない。

滅多にない空白の時間を、先ほどから座り込み
物思いに浸っている。
視線は、机の上に置かれている「禁滞書」に向けられてはいるが、
それは あくまでも視線上で、その瞳は 先ほどから
自分の中の1つの思考に向けられている。

ロイは 先ほどから、思考のループを廻っている。
自分の野望は、自分の存在意義の為に必要で
かならずや、やり遂げなくてはならないものだ。
それは、他に摩り替えられるものでも、
なくすことも出来ない。
無くせば、今生きている自分も そして、生きてきた道程も
無に帰してしまう。
叶えた先にあるものが、今の自分が真に望んでいるものかは
ロイ自身 わからない事だが、
叶えない事には、その先にあるものは決してみえてこない。
だからこそ、ロイは どんなに辛酸を嘗めても
どん底に落ちたとしても、決してあきらめる事ができないと
思っているのだ。

・・・・では、彼は 自分にとっては どんな意義があるのだろう。
優秀な駒としては、過去に難が大きく リスクが大きい。
部下として持つには、幼すぎる。
そして、何より 自分が彼を軍人にする事を喜んでいないふしがある。
メリットより、デメリットが大きい存在、それが彼だ。

ロイ個人から考えてみても、
彼は 扱いづらい部類に入る人間だと考えている。
自分の願いに忙しい相手は、他人を浮けいる余裕もない。
うっかり深く入りすぎると、自分まで巻き込まれる恐れがある。
ロイの野望を考えると、 出来ればお近づきにはならないほうが無難だろう。
そして、自分が彼に抱いている感情から考えると
自分が好んで付き合ってきた範疇からは、大きく外れている。
・・・しかも、男だ。

『何故、何が』
この単語が 先ほどから、ロイの頭と心の中を繰り返し点滅していた。

が、簡単には答えが思いつかないし、浮かんでこない。
人が人に惹かれる理由などは 千差万別で これという理由があるわけではない。
容姿だったり、性格だったり、相性だったり、
考えや価値観、趣味や嗜好 そのどれもが、最初のきっかけに過ぎず、
決定ではない。
「気づけば惹かれていた。」
それが、恋に落ちた人間の正直な気持ちでなないだろうか。

人は決して、一人では生きていけない。
誰もが 知っているこのフレーズを、
本当の意味で理解し実感している者は
そう、多くはない。

ロイ自身も、若くして大佐の地位に上り詰めてきた人間だ。
自分に自信もあれば、これからの未来にも可能性を信じている。
自分の足で進み、欲しいものは 自らの腕で掴み取る強さを持ち、
自分自身を信じて ここまでやってきた。

が、彼とても一人の人間である事は変わらず、
人以上の存在になる事は不可能なのだ。

疲れたときに、迷うときに、悲しみに打ちひしがれるときに
自分以外の人間に縋りたくも、癒されたい時もあるはずなのだ。
が、彼は それを自分自身に禁じてきた。
「甘えは禁物」だと。
誰にも心を許すな、信じるな、預けるなと。
そうやって信念の声に押さえつけられながら、
深く深く沈み込んだ自分の1部は
本人自身にも見つけられないように、堅く殻の中に潜んでしまった。
殻を割る強さを持つ者が現れるまで。

ロイがエドワードに惹かれたきっかけは「強さ」だろう。
幼くして人体練成を行おうとする精神力、
それを行えるだけの能力、
そして、失敗して地獄に落ちてさらに
這い上がる生命力。
それらの強さが、ロイの中に深く沈みこんだモノに
強く訴えかけてきたのだ。

「現れたぞ、殻を壊せる者が!
 自分に並べるだけの力を持つ者が!
 そして、自分を支えるだけの力を持つ者が!」と。

そう、ロイ自身 気づかずに捜し求めていた。
だから、一目見た時 『見つけた』と思ったのだ。

ロイは 理由を探しているが、深層意識で成された事には
気づける者は稀だ。
だから、答えは以前見つからないまま。
ただただ、相手に強く惹かれていくだけ・・・。


そして、欲しいと願ったものは
確実に手に入れる・・・それが、ロイ・マスタングという男だ。

ロイは、思考から自分の意識を引き離し
机に置かれた「禁帯書」に目を向けて、僅かに口の端を上げる。

『これは餌だ。
 彼を呼び寄せる為の。』

旅立てば、容易な事では帰ってこないエドワードだが、
『情報が手に入った。』の言葉には すぐさま反応を示す。
前回、彼が戻ったときに 自分と彼との距離を
嫌というほど思い知らされたロイは、
いつまでも、その屈辱に晒されてはいなかった。

すぐさま、彼が飛びつきそうな情報を探し手に入れた。
エドワードがロイに戸惑いを感じている このチャンスを逃すつもりもない。
本来なら、今の彼の状態なら しばらくは 
ここに寄り付かないようにするつもりだろうが、
そこは先手を打って呼び返す。

ロイの情感を受け止めるには、まだまだ幼すぎる相手には
多少 強引でも、確実に相手の意識に自分を植えつける方が効果的だ。
それをいつにするかのチャンスを狙っていたロイにとっては、
今は絶好の時と言えるだろう。

コンコンと扉がたたかれる。
「入れ」

「失礼します。
 エドワード君が戻り、大佐との面会を求めておりますが。」
優秀な副官が、待ち人の訪れを告げてくる。

「ああ、私が連絡したんだ。
 通してやってくれ。」

「はい、わかりました。」
きっちりと礼をして下がろうとした彼女に、
ロイが今後の事を考えて告げる。

「鋼のが入ったら、しばらくは人払いをしてくれ。」
ロイが そう告げると、短く わかりましたとだけ告げて
下がっていく。

その後、おざなりのノックの後にエドワードが入ってくる。
「大佐、禁帯書が手に入ったって聞いたけど。」
挨拶も そこそこに本題に入る彼の様子に
彼が どれだけ興味を惹かれているかが手に取るようにわかる。

「ああ、鋼の、久しぶりだね。」
ロイは、エドワードとは対照的に悠然と挨拶を返す。

「久しぶりって程でもないだろ。
 前回から1ヶ月もたってないんだから。」
ロイの余裕ぶりが気に障ったのか、
ロイを見る目が険しくなる。

ロイは そうだなと返事を返してやりながら
『1ヶ月も かかったんだよ。』と心の中でつぶやいてやる。

「で、読ませてくれるんだろう?」
さも、当然のように言ってくるエドワードの無礼にも
ロイは機嫌よく頷いてやる。

「その前に、鋼の。
 こちらに来なさい。」

そう声をかけると、1瞬動きが止まり
息を吐きながら あきらめたようにロイの前に立つ。
定例の事ながら、エドワードは どうやらこの時間が苦手のようだ。
いつも、毅然とした態度は崩さず立とうとするが、
苦手だと相手に伝わってしまうようでは、まだまだ子供だ。

逆にロイは、この時間が1番好きなのだ。
彼が戻ってきた事を実感でき、相手をじっくり見る事に
気も使わず、遠慮もせずに眺めれる。
今回は不在が短かったせいか、前回とはさほど変わりは無いようだ。
まぁ、それは身体的にと言う事で、精神的にと言う事ではない。
宝石のようだといつも思う金色の瞳の中には
以前までなかった戸惑いが揺らめいている。
目は口ほどにとは言うが、まさしくエドワードの瞳は雄弁だ。
今も、不躾に眺めるロイに対する批判と、
その視線を向けられる事への戸惑いが、代わる代わる浮かんでは
現れている。

『さて、余り時間を取ると癇癪をおこされるからな。』

「鋼の、こちらだ。」
と机の上に置いてあった資料を手渡してやる。
途端に明るくなった表情で、礼を言って受け取る彼に
釘を刺しておく。

「わかっているとは思うが、持ち出しは禁止だ。
 口外もされては困る。
 当然、移し書きもだ。」

「わかってるよ・・・。
 んで、俺は どこでこれを読めばいいわけ?」

「ここで読めばいいだろう?
 中尉には、人払いを頼んである。」

「・・・わかった。」
不承不承、ロイの言う言葉に従ってソファーに腰掛けて読み始めるや否や
あっと言う間に 自分の世界に入り込んでいく。
エドワードが こうなると、全く周囲に目がいかなくなるのは
前回で身に染みてわかっているので、
ロイもほっておき、自分の仕事を再開する。
しばらくの間、室内にはペンを動かす音と、ページを捲る音だけが
続いていた。

しばらくして、エドワードに目を向けると
どうやら、読み終えるとこらしく
最後のページを捲っていた。

「ふぅー。」
息を吐いて目を閉じている。
多分、読んだ内容を反芻し、整理しているのだろう。

「どうかな、参考になったかな?」
そう声をかけてみると、室内に居たロイに 今気づいたように
はっと目を向けてくる。

「うん・・・、かなり参考になった。
 俺達とは違うけど、こいつが考えてた事は理論上はわかる。
 無くした肉体の代わりを 他の肉体で再生する。
 理論では上手くいくはずなんだけど、成功した例はない。

 同じ物資を使っての練成だから上手く行って当然なのに
 どうしても上手く行かない。
 何とか試せるようなモノを創り上げて、やってみても、
 それは使い物にならなくて、時間が過ぎる毎に腐り落ちていく。
 何かが足らないか、違うかなんだよな~。」

首を傾げながら、手にした資料をパラパラとめくる。
読み返す度に、口元が音にならない言葉を刻む。
ロイは それに、思わず目を奪われる。
小ぶりながら、柔らかそうな厚みを持っている唇は
触れたら どれだけ甘く感じるのだろうか。
 
そんな邪な事を考えながら見つめていたせいか、
エドワードが こちらの視線に気づいたように目を向けてくる。
「?」
不可解な視線を、妙に思っているのが表情に表れている。
 
「何かな?」とロイは逆に聞いてやる。
ロイに そう聞かれると、はっきりと何がとはいえないせいか、
いや と首を振り、自分の疑問を振り払うように
他の事を聞いてくる。

「それにしても、よくこんな資料が手に入ったよな。
 これ、相当 やばい代物だろ?」

「ああ、彼は結局は死んだが、
 犯した犯罪は 相当のものだからな。」

この資料は ただの禁帯書と言うだけでなく、
軍の極秘書類にもあたる。
ロイが これを手に入れれたのは、情報部のツテがあったからで、
そうでなければ 例え大佐の地位があっても、
おいそれとは閲覧は許されないだろうし、
その存在を知らされる事もなかっただろう。

『そう、貴重な代物なんだよ。
 君にとっても、私にとってもね。』
表面上は変わらずに、心の中で人の悪い笑みを浮かべる。

「だろうな~。」
ロイの心の中でつぶやかれている言葉が聞こえるはずもなく
エドワードは、感心して資料に見入っている。
しばらくは、要所を、見直しては考え、
考えが閃くと、ページを捲る事を繰り返していたエドワードだが、
どうにも集中が出来ない。
いつもなら、簡単に思考の世界に入れるのだが
一旦 集中が切れてしまったせいか、
どうにも 一緒に部屋に居る相手が気になってしまう。
最初は気のせいかと思っていたが、ふと相手を見ると
相手と目が合う。
「何か」とその度に聞かれるのだが、
見られているから気になるとは言いにくい。
折角の貴重な資料だ。
時間が許す限りは検討していたい。
だが・・・。
次第に苛立ちを募らせていくエドワードが、
意を決してロイに言う。

「・・・なぁ、やめてくんない。
 そんな目で見るの・・・。」
ロイの方を見ずに そう告げてくるエドワードに
ロイは平然と返事を返す。

「・・・どんな目で見ていると言うのかね?」

獲物を追い詰めるように、じっくりと確実に
相手との距離を詰めていく。

余裕を持って返答するロイに、小馬鹿にされたと思ったのだろう、
怒りを乗せてロイを振り返ったエドワードが
感情を荒げたままに、ロイに叫ぶ。

「そんな目だよ!

 何、あんた この前から。
 俺に何か言いたいことでもあるのか?
 なら、はっきり言えよ。
 
 何もないんなら、そんな目で見るな。」

苛立ちが限界になっていたのだろう。
エドワードは、以前からの不満をぶつけるように
一気に言うと、ロイをきつい目で見据える。

「なるほど・・・。
 君が 私の視線に気づいてくれていたとは 光栄だな。

 が、見ないようにするのは。」

そこで、ロイは一旦言葉を切ると、
静かにはっきりと告げる。

「無理だな。」

エドワードは、ロイの予想を裏切る返答に呆気に取られ、
次に込み上げる怒りそのままに相手を問い詰める。

「なんで!?」

「言っても?」

「だから、なんでか言えっていってるだろ!」
気の短い子供は、自分のこの言動を後々は後悔する事になるが、
相手に乗せられて、言ってしまった事は取り返す事ができない。

「わかった。
 君が そこまで聞きたがるなら、私も言おう。」

すくっと机から立ち上がると、ロイはエドワードの近くに歩いてくる。
決して急いでいるようには見えないのだが、音も無く距離を詰めてくる歩き方は
まるで肉食獣のようだ。
優美でしなやかに、風のように、相手との距離を埋めていく。

近づいてくるロイに、いつもと違う気配を感じ
エドワードの体が思わず引けてしまう。
そんなエドワードの怯えも きちんと見抜いた上で、
ロイはエドワードが座るソファーの前で片膝をついて
エドワードの生身の方の手を取る。

「な、なんだよ。」
ロイのいつもとは違う雰囲気に、ちゃかすように笑おうとしたが
顔は強張り、上手く表情を作れない。
獲られた手を引こうにも、逃さないように握られた手はビクともしない。

ロイは 怯えて体を硬くしている彼を見つめる。
そして、真摯な姿勢を示し、相手に伝わるようにと願う。
どんな理由にせよ、自分が この子供を好きな事には嘘は無い。
幼い相手には、負担が多すぎるだろうロイの想いを受け止めさせるには
忍びないのだが、
ロイとて エドワードが思うほど余裕があるわけではないのだ。
逆に 気づかずにいたエドワードより、篭っていた年月が長い想いは
すでにロイの忍耐も理性も食い破らん勢いで大きくなっている。
ほっておけば、近い内に暴走しそうなほど。

「エドワード、私は君が好きだ。
 君は 私が好きか? それとも 嫌いか?」
ゆっくりと、はっきりと聞こえてくる言葉は
エドワードの頭の中では、内容には簡単に結びつかない。

「・・・はぁ、な、なに言ってんの・・・。」

大きく開かれた目は、瞳が零れ落ちそうだ。
そんなエドワードの反応は、予想したとうり過ぎて
ロイは 思わず微笑んでしまう。

「なにって、そのまま言葉のとうりだが?

 私は君が、エドワード・エルリックが好きだ。
 私の言っている言葉の意味がわかるか?
 もちろん、恋愛感情でと言う意味でだ。」

説明するように親切に繰り返される言葉の意味が
やっとエドワードの頭の中で内容が把握されると
一瞬で耳まで紅くして、おろおろと視線をさ迷わす。

「あ、あんた 何言ってんの?
 俺、ちゃんと男だぜ。

 あっ、もしかしたら あんた そう言う趣味があったのか!」
変に納得をしそうなエドワードに、
どこでそんな事を覚えてきたのやらと
ため息をつきたくなる心境を抑えて
、辛抱強くエドワードに伝え続ける。

「何って、君が聞きたいと言ったんだろ?
 私の視線の意味を。

 それに、私には君が誤解するような趣味はない。
 男か女かではなくて、
 私は君だから、エドワードを好きになったんだ。

 君は私が嫌いか、それとも 嫌いじゃないか?」

重ねて問うてくるロイの言葉に、エドワードは戸惑いながらも
考える。

嫌いかと聞かれれば、苦手だと思う時はあるが 嫌いとまでは行かない。
彼が、自分達に目を掛けてくれているのはわかっているつもりだ。
だから、答えは『嫌いじゃない』だが、
それが ロイが言うように恋愛関係でとなると正直全く浮かばない。

なんと答えれば良いのかと思い悩んでいるエドワードに
ロイは 焦らす事のないように、穏やかに相手が話し出すまで待ってやる。
ロイ自身、エドワードの答えなどわかりきっているのだ。
彼が 自分の事をそんな関係で考えた事がないのは
当然、わかっている。
なので、色よい答えが返るはずがない事も。
大切なのは、エドワードに自分の事を認識してもらう事なのだ。
答えなど、今はNOでも 後でYESに変えれる様にすれば良い事だ。

そうやって、ロイが穏やかに待ち続けてくれるのに勇気付けられたのか
おずおずとエドワードが答えを返してくる。

「俺、あんたの事はきらいじゃないぜ・・・。
 あんたが 俺らに良くしてくれてるのも
 気遣ってくれているのもわかってるつもりだ。

 でも、恋愛関係で好きかって問われると
 ごめん・・・、そんな事考えた事もない。」
澄まなさそうに告げてくるエドワードに、
解っていた事なのに気落ちする自分に、あきれもしながらロイが
エドワードに優しく微笑んでやる。

「そうか。
 
 でも、覚えていてくれるかな?
 私が 君を好きだと思っている事を。」
そう、請われるように言われると
エドワードも断りきれなくなり、
小さく 「うん。」と返事を返す。

耳まで紅くしたエドワードが俯いてしまうと、
相手の可愛い仕草に、辛抱の足らない大人は
余り褒められない行動に出る。

「じゃぁ、君が覚えていてくれるように約束だ。」

ついっと握っていた手を引き、
引っ張られて倒れこんできたエドワードを抱きかかえると
驚き反応が遅れたエドワードの顔を上向かせ、

「約束」

と、素早く 口付ける。

そして、素早く身を離すと にやりと
悪戯が成功した子供のような顔で笑う。

呆然としたエドワードが 自分に起こった事に気づき
今度は 怒りで頬を紅くして、ロイに怒鳴り返す。

「な!なにするんだよ、あんた!

 お、俺のファーストキス・・・。」
涙目で唇をこするエドワード。

「そうか、君のファーストキスは私だったんだな。
 それは、嬉しいな。」
(そして、その後の全ての初めても いずれは私のものになるがね。)

嬉しそうに笑うロイに、堪忍袋が切れたエドワードが殴りかかる。

「おっと、危ないじゃないか。
 当たったら痛いだろ。」

飄々とエドワードが繰り出す拳を避けながら、
上機嫌のロイが そう言うと、

「痛いように殴るんだから、当たり前だろ!
 殴らせろ。」

「ははは、痛いのは嫌いでね。」

エドワードの対術はなかなかのものだが、接近戦ともなれば
対格差にはかなわない。
ロイが 暴れるエドワードを羽交い絞めして
その耳に囁くように言ってやる。

「そんなに腹がたったなら、
 よければ返してやろうか?」

そう、人の悪い笑顔で言ってやると
しばらく考えていたようだが、返されるものの意味がわかったのか

腕から逃れて脱兎の如く部屋から飛び出して行った。

やれやれ、からかいすぎたかと 悲惨な惨状になっている部屋を見回していると
開きっ放しになっていた扉から、いつでも冷静な補佐官が
あきれ顔で入ってくる。

「一体、何をしてらしたんですか?」

「いや、鋼のとのコミニケーションを、ちょっとね。」

肩をすくめて答える上司の機嫌の良さそうな顔を見て、
あきらめと共にため息を吐き出すが、
忠告だけは忘れずに伝える。

「コミニケーションも宜しいですが、
 子供をからかうのも ほどほどにしないと。

 それと、片付けは一人でお願いします。」

そう言いきると、パタンと扉を閉めてしまった。

一人で片付けるには、少々荷が重い部屋の有様だったが
ロイは 機嫌よく片付けていく。
告白するだけが、思わぬ収穫も得れた事で十分 お釣りがくる。

禁帯書をひらいあげながら、さて 次は何で呼び出すかなと
エドワードが見いていたら、蒼くなりそうな
容赦ない笑顔を浮かべながら、つぶやくロイの姿があった。


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